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【インタビュー】「期待にこたえ、予想を超える空間の価値をつくる」

BAMBOO HUBインタビュー 

寶田 陵(the range design INC.)

聞き手/BAMBOO MEDIA

 

 

——寶田さんは現在、多くのホテルの設計デザインを手掛けていらっしゃいますが、ここがターニングポイントだったと考えるお仕事やプロジェクトはありましたか?

 

最初はゼネコンでマンションを始めとする住宅の設計を中心に手掛けていました。その後、前職のUDSでコーポラティブハウスの設計に携わることになるのですが、その経験が今の仕事のやり方につながっているのかもしれません。(写真1〜3)

コーポラティブハウスは入居希望者が複数集まり、その全員が組合として事業主になって家づくりを行う集合住宅です。10〜15戸ほどの規模のプロジェクトが中心で、数名の設計者でそれぞれ何軒かずつ担当して計画を進めていきます。その中で私は、土地取得や説明会段階からの建物全体の設計やコーディネート、いくつかの住居の設計、そして他の設計者の手配やデザインの調整などを一貫して担っていました。

長く住み続けたいという方もいれば、将来的に売ることを考えている方もいて、計画段階から設計者に要望を伝えることができることもあり、デザインは一つひとつ異なるものになります。例えば「明るいダイニングがほしい」というオーナーがいれば、他にはないトップライトを提案したり、「住宅っぽくない雰囲気にしたい」というオーナーには、通常住宅で使われないような仕上げ材や建具を取り入れるなどの提案を行いました。要望を叶えるために、あえてフラットな床のレベルを変えるようなことも行いましたが、コーポラティブハウスは基本的に全員で同じ予算を出し合ってスタートするため、そのデザインがなぜ必要なのか、合理性はあるのか等、他の入居者に理解してもらう説明や予算調整が不可欠で、通常の住宅づくりでは経験できないような多くのことを学ぶことができました。

 

 

——商空間づくりは基本的に、「どうすればお客さんが来るか」という客観的な視点が求められますが、住宅は「私がこうしたい」というオーナーの思いを実現するためのフルカスタムのデザインですね。

 

オーナーの思いをどれだけ聞き出し、同時にどうやって全体のバランスを取るかが重要になります。入居者それぞれの思いを汲み取りすぎると、例えば、開口部のデザインがバラバラで、外観が統一感のない建物になってしまうこともある。それがコーポラティブハウスらしさでもあるのですが、設計者としては全体的なデザインにもこだわりたい。入居者の自由な要望を形にしながら、一つの建築物としてのクオリティーを上げていくための取り組みは、ホテルを始めとする商空間の設計にも生きていると感じます。また、外部の設計者と一緒になってプロジェクトを進めた経験も、ホテルで他のデザイナーやアーティストとコラボレートする際の考え方につながっていますね。


——商空間を主に手掛けるデザイナーには、オーナーからの要望が多すぎると住宅設計を敬遠する人もいますが、寶田さんはオーナーの要望を形にすることが主となる家づくりに携わってきたことで、設計の進め方にも違いがありそうですね。

 

オーナーからの要望はどんどん出してもらいたいですね。コーポラティブハウスの設計に携わった当初はこちらの提案よりオーナー自身が「こんな家にしたい」という思いと共に、たくさんの資料や情報を持っていらして、それをどうやって住宅に落とし込むか、オリジナリティーのある表現をするかということが求められました。今では、私自身の経験や知識が蓄積されてさまざまな提案を積極的に出せるようになったので、オーナーの強い思いや求めるものを、より高い次元で発展させ、満足のいくデザインに昇華させていくことが重要だと思っています。それには「オーナーの要望を聞くこと」はとても重要な仕事だと思っています。

 

 

——寶田さんが空間をデザインする上で大事にしていることは何でしょう。

 

オーナーや利用客の方が、支払ったコスト以上の価値を感じられる空間体験を提供できているかを常に意識しています。例えばホテルでは、ただ心地良く過ごせる空間だけでは大きな価値は生めません。1泊6000〜7000円ほどの料金であれば、客室デザインを始めとするハードに注文をつける利用者は少ないですが、1万円を超える単価のホテルでは、普段とは違った非日常空間としての価値が求められます。非日常的な体験を演出する上で、過ごしやすさや使いやすさは大前提として、住宅という日常空間の使い方とは異なる“脱住宅”と言えるようなアイデアを取り入れるような工夫をしています。例えば、照明スイッチをトグルスイッチに変更してみたり、スイッチプレートの向きをタテからヨコにしてみたりと、人の行為に影響を与えるちょっとしたディテールの積み重ねで非日常感を生み出すこともできます。

また、普段はインターネットのホテル予約サイトで、宿泊客の口コミなども細かくチェックしています。口コミには、この空間が良かった、この設備が使いづらかったといった意見がたくさん載っています。自分が設計したホテルを中心に口コミを見ていると、どの価格帯のホテルのお客さんがどういった空間体験や価値を求めているのかというヒントを見つけることが出来ます。これは、ホテルという個室空間のある業態ならではの傾向かもしれません。

 

 

——使い手の要望を細かく汲み取るという点は、住宅づくりでのオーナーとのやり取りと近いものがありますね。

 

私は今でこそ様々なホテルを設計させていただいていますが、それまではホテルについての知識はほぼゼロでした。なので試行錯誤しながら、国内外のホテルに泊まりまくって、客室をスケッチし、寸法から素材、色まで記録し、自己流で分析を重ねてきました。今でも設計依頼を受けた際はその周辺にあるホテルに片っ端から泊まって研究することは欠かしません。それは、もしかしたら主流のホテル設計とは異なる手法かもしれません。しかしそれでも私が携わったホテルが利用者の方に受け入れられているのは、オーナーや利用者の方の声をとにかく聞いているからだと思います。それは、言われたままに形にするということではなく、聞いた要望の中から、利用客の方が真に求めていることは何か、プロジェクトに必要な要素とは何かを見極めることが重要だと考えています。と同時に、自分からアイデアを提案する際、そこに“自分のエゴ”はないか、ということもきちんと分析するようにしています。提案するデザインが最適で、価値のあるものかを常に考えているので、ホテルのような長期間に及ぶプロジェクトでは、計画初期に描いたプランを、計画が進む中でギリギリまでアップデートすることも珍しくありません。新しい情報や、利用客がホテルに求める要素に対してプランを当てはめながらデザインをしていきます。

 

 

——これからの商空間において、どのような空間体験や価値が求められ、それに対してどう応えていきたいとお考えですか。

 

ビジネスホテルがただ宿泊できれば良かった時代から、そこでの体験価値が重視されるようになったように、例えば病院や老人ホームといった場所でも、より価値のある時間を過ごせる空間づくりが求められるようになるのではないかと思います。病院の待合室がブックカフェのようになっていたり、健康になるためのドリンクバーがあったりしても良い。高齢化が進むなかで中高年の独り身の人のためのグループホームが、今のソーシャルアパートのような空間の延長線上にあるかもしれない。

住宅と商空間それぞれを手掛けてきた経験を生かしながら、心地良さや過ごしやすさの先にある、新しい空間や場の価値を生み出すデザインをしていきたいですね。

 

——ありがとうございました。〈了〉

the range design 株式会社
寶田 陵
1971年 東京都墨田区生まれ
1993年 日本大学理工学部海洋建築工学科卒業
1993年 (株)フジタ計画設計部
1999年 (株)LIV建築計画研究所
2000年 (株)都市デザインシステム
2008年 鹿島建設(株)建築設計部
2009年 UDS(株) 企画・デザイン事業部(2012〜2016年 同会社執行役員)
2016年 the range design (株) 設立(2016.04〜)

 ホテル、旅館、共同住宅、商業施設、オフィス等、幅広い分野で建築設計及びインテリアデザインを手掛ける。近年ではプロジェクトにおける企画プロデュースやデザインディレクション、家具や照明器具などのプロダクトデザインにも活動の幅を広げ、新しいライフスタイルを生み出す建築・空間づくりにチャレンジしている。